「先生、私、よくわかんないよ」
「うん」
「先生と話してると泣けてくる」
「…ああ、そう」
「なんでだろう、先生には私のこと色々話したいから、話そうとするのに、泣いちゃって言葉にできないよ、自分で自分がわかんないよ」
「だから泣いてるの?今も」
「…うん」
「何が怖いの」
「え?」
「怖いから泣いているんでしょう、つまりは。人に嫌われるのが怖いから?」
「…うん」
「どうして嫌われると思うの」
「だって、…私はすごく嫌な人間だから」
「誰が決めたの?それ」
「…」
「あなた自身でしょう」
「…」
「もったいないね、本当に。良いんですよ、別に感情を外に出すことは悪くない」
「…」
「出したことあるの?ちゃんと表現したことあるの?無いでしょう」
「…」
「あなたが今抱えてる気持ち、不安、悩み、嬉しさ、楽しさ、表現してみなさい、他人にぶつけてみなさい、それで嫌われるなんてことは殆ど無いでしょう。あなたの友人はそんなに薄情な人間なんですか」
「…でも、私は、すごく汚いから」
「それを決めるのはあなたじゃないでしょう、事実、私はあなたの気持ちをこうやって聞いているけど、別に汚いとも嫌だとも思いません」
「…先生は変なんだよ」
「変?失礼なことを言いますね、相変わらず」
「…そうかなぁ」
「そうでしょう」
「…」
「頭は良いけど、思考は本当に、馬鹿というか、何というか、あなたも相当変な子だ、本当に」
「…馬鹿にしてる?」
「いや、別に」
「信じてもいいのかなあ」
「当たり前でしょう」
「先生はすごいね、私のこと全部わかってくれるんだね」
「まあ、…君は相当わかりやすいですよ」
「嘘だあ!そんなことないよ、きっと先生だからだよ」
「…またそういうことを言って」
「先生好きだなあ、先生みたいな人がたくさんいればいいのになあ」
***
大好きだったO先生がいなくなってしまって、もう6年。
受験に勉強に人間関係に将来のことに、悩みが尽きなかった高校生のころ、
先生に言われた言葉は私の心の中に、色あせず残っているのに、
私は先生に言われたことをちっとも実践できていない。
人を信じるのが怖いです。
信じられたいくせに、信じるのはとても怖いです。
自分の気持ちを伝えることが苦手です。
表面的にはうるさいくらいに外に出すけど、
本当はこうして貰いたいとか、こうしてほしいとか、
自分はこんな人間だとか、相手のことをもっと知りたいとか、
そういうふうに言えなくて、ただいつもニコニコしているだけで、終わってしまいます。
薄っぺらい、すごく。
そんな私にも大好きな人はいて、
それは恋人とか、友人とか、家族とか、いろいろな「大好き」で、
そういう人たちには、もっともっと素直になりたいんです。
人間関係をちゃんと築きたい。
一対一の人間としての、信頼関係。
(他人の気持ちなんていくら考えたってわからないから、本当は面倒くさいし、いやだ)
(でもそんなことは言っちゃいけないんだよね)
(先生)