2013年6月27日木曜日

O先生への懺悔


「先生、私、よくわかんないよ」

「うん」

「先生と話してると泣けてくる」

「…ああ、そう」

「なんでだろう、先生には私のこと色々話したいから、話そうとするのに、泣いちゃって言葉にできないよ、自分で自分がわかんないよ」

「だから泣いてるの?今も」

「…うん」

「何が怖いの」

「え?」

「怖いから泣いているんでしょう、つまりは。人に嫌われるのが怖いから?」

「…うん」

「どうして嫌われると思うの」

「だって、…私はすごく嫌な人間だから」

「誰が決めたの?それ」

「…」

「あなた自身でしょう」

「…」

「もったいないね、本当に。良いんですよ、別に感情を外に出すことは悪くない」

「…」

「出したことあるの?ちゃんと表現したことあるの?無いでしょう」

「…」

「あなたが今抱えてる気持ち、不安、悩み、嬉しさ、楽しさ、表現してみなさい、他人にぶつけてみなさい、それで嫌われるなんてことは殆ど無いでしょう。あなたの友人はそんなに薄情な人間なんですか」

「…でも、私は、すごく汚いから」

「それを決めるのはあなたじゃないでしょう、事実、私はあなたの気持ちをこうやって聞いているけど、別に汚いとも嫌だとも思いません」

「…先生は変なんだよ」

「変?失礼なことを言いますね、相変わらず」

「…そうかなぁ」

「そうでしょう」

「…」

「頭は良いけど、思考は本当に、馬鹿というか、何というか、あなたも相当変な子だ、本当に」

「…馬鹿にしてる?」

「いや、別に」

「信じてもいいのかなあ」

「当たり前でしょう」

「先生はすごいね、私のこと全部わかってくれるんだね」

「まあ、…君は相当わかりやすいですよ」

「嘘だあ!そんなことないよ、きっと先生だからだよ」

「…またそういうことを言って」

「先生好きだなあ、先生みたいな人がたくさんいればいいのになあ」


***

大好きだったO先生がいなくなってしまって、もう6年。
受験に勉強に人間関係に将来のことに、悩みが尽きなかった高校生のころ、
先生に言われた言葉は私の心の中に、色あせず残っているのに、
私は先生に言われたことをちっとも実践できていない。

人を信じるのが怖いです。
信じられたいくせに、信じるのはとても怖いです。

自分の気持ちを伝えることが苦手です。
表面的にはうるさいくらいに外に出すけど、
本当はこうして貰いたいとか、こうしてほしいとか、
自分はこんな人間だとか、相手のことをもっと知りたいとか、
そういうふうに言えなくて、ただいつもニコニコしているだけで、終わってしまいます。

薄っぺらい、すごく。

そんな私にも大好きな人はいて、
それは恋人とか、友人とか、家族とか、いろいろな「大好き」で、
そういう人たちには、もっともっと素直になりたいんです。

人間関係をちゃんと築きたい。
一対一の人間としての、信頼関係。


(他人の気持ちなんていくら考えたってわからないから、本当は面倒くさいし、いやだ)
(でもそんなことは言っちゃいけないんだよね)
(先生)

2013年6月21日金曜日

ラヴについて。

『姉の結婚』という漫画を読んだ。

年上の友人から借りて、はじめて読んだ時は、簿記の勉強のあとに一気読みしたからか、なんだかとても疲弊してしまって大変だった。うーん、最近流行っているのはわかるけど、ね…、といった具合。
でも不思議なもので。友人の話を聞いたりして、少し価値観が変わったかな、と感じたタイミングでもう一度読んでみたら、響き方が違った。もはやバイブルだ。この漫画はそういう意味では、とても策士だと思う。


主人公の岩谷ヨリは、40を目前に控えても独り身、もはや色恋沙汰は閉店宣言をしている、いわば『負け組』。そんな彼女が、運命のいたずらか、ずっと自分を慕っていたというイケメン精神科医と再会して、ずるずると関係を築いてしまう…というのが話の流れ。
このイケメン精神科医がフリーだったら、晩熟な女性のラヴストーリーで終わるのだろうが、あろうことか妻帯者だから、うまくいかない。流されるヨリと、巧みに操るイケメンの駆け引き。

結婚ってなに?恋愛ってなに?ヨリはぐるぐると考えては疲れ、沈む。見た目も内面もとても綺麗な女性なのに、なんて勿体無いことか!女性読者たちの妬む声を代弁してくれるのは、ヨリとは正反対のキラキラスイーツ女子、妹のルイだ。


ルイ、年齢はわたしとおなじ、24か5くらいだと思うんだけど、非常にテクニシャンである。自分が可愛いことを否定しない。可愛くてなにが悪い、と言わんばかり。それでいて馬鹿ではない。姉のヨリに対し、『心配かけないでよ、いろいろ!』とまで言えるほどの気の強さと豊富な経験を持っている。読者の代弁者でありながら、読者の憧れにもなりうる貴重な存在。

結婚についてぐるぐる悩み、泥沼の関係にはまっていくヨリ。一方で、『自分が一番好きなひとではなく、一番自分を大切にしてくれるひととするのが結婚!』とキッパリ言ってのけるルイ。深い、深いぞ、この姉妹。

…とまぁ、ほんとに好きなシーンはありすぎて選べないんだけど。この2人の対比が好きなのであえてピックアップしてみました。


この漫画の作者の書いた『男の一生』も読んだけど、作者は、すごく馬鹿な女の人を描くのが上手い。ヨリにしても、『男の一生』の主人公、つぐみにしても、容姿端麗で頭脳明晰のくせに、恋愛下手で臆病で、泥沼にはまっていく傾向あり。社会的に見ればNGだし、只の馬鹿だ。それでいて、この作者の漫画が女性から圧倒的な支持率を得ている理由は、馬鹿な女性を赤裸々に描きつつも、きちんと前を向き歩いていく彼女たちの姿を描くからではないか。

ヨリは、不毛な恋愛に対して一喜一憂しつつも、けして立ち止まったりはしない。かつて信じていた『運命』も、『それはわたしの選択のひとつ』とまで言ってのける。日々成長している。日々綺麗になっていく。最新刊の彼女は本当に綺麗だ。憧れてしまう。

きっと作者は、エールを送ってくれているのだと思う。馬鹿な女性たちに。馬鹿なままではいちゃだめだよ、きっと大丈夫だよ、と。


地元で見つけた、ラヴ。